イデクン

物静かで、知的で、でもどこかミステリアスなクラスメイト。ここでは仮に井出くんとしておく。全ての人とすべからく仲良くできるタイプではないけれど、どこか影があるところとか、話すと人懐っこく、ときおりはにかんだ笑顔を見せるところがあって、一部の女子には人気だった(と思う)。

都内の大学のメディアなんとか学部とかいう凄そうだけど何やってるのかわからないようなところに進学した井出くんとは、成人式の2次会で少し話したきりだった。

井出くんは大学を卒業してから広告会社に就職したけど、半年も経たずに辞めてしまったらしい。震災直後、電気が消え静まりかえった新宿駅でたまたま遭遇した共通の友達、ゑでぃに聞いた。

それからまた数年経った。

ぼくは転職したばかりの会社の歓迎会で、今までにないくらい酔っ払っていた。当時住んでいた高円寺のアパートの近くまで、まだ名前も覚えていない隣の部署の先輩がタクシーで送ってくれたらしいが、そこあたりの記憶がない。

夜が明ける少し前、家のすぐそばの公園の草むらで意識が戻った。頭がバットで殴られたみたいにがんがんして、関節はぎしぎしして、のどはからからに乾いていた。どうやら家までたどり着けなかったようだ。

「大丈夫ですか?」

うっすらと開けた目に、ぼんやり人の形が映る。

公園の街頭をちかちかと反射させている、なんかよくわからない素材の露出度の高い服に、ピンク色の長い髪。ハイヒールを履いていたけど、そのハイヒールに伸びているふくらはぎの筋肉のつき方は、明らかに男のそれだった。ドラッグクイーン、、、かは分からなかったけど、田舎にいたら絶対に浮くタイプ。ってか、普通に関わりたくないタイプ。

「あさりくん・・・?」

 

井出くんだった。

 

ってくらい、井出健介と母船の新譜『Contact From Exne Kedy And The Poltergeists (エクスネ・ケディと騒がしい幽霊からのコンタクト)』での変貌ぶりがやばいぃぃぃっっっ!

 


井手健介と母船『Contact From Exne Kedy And The Poltergeists(エクスネ・ケディと騒がしい幽霊からのコンタクト)』トレイラー

あんま、この動画からは伝わらないかもだけど、、、

2015年に出た井出健介と母船のファーストアルバム


井手健介と母船 - 青い山賊

は、星野源がメジャーになったことにより空いたサブカル女子の心の穴を埋めるのに充分なだけのポテンシャルを持った傑作で、自分も愛聴していたし、その後もYouTubeでオカマ界の大名曲「健さん、愛してる」の名カバーも折に触れては聴いてたんだけど、


井手健介 健さん、愛してる live at 高円寺 円盤

しばらく存在を忘れてたら強烈なパンチを食らった。

石原洋と中村宗一郎のスタジオワークでタイトでファンクに生まれ変わったバンドサウンドに、姫路の秘宝ゑでぃまあこんやmmmらが華をそえるんだけど、印象深いのは1曲毎に別人のように表情を変える歌。1曲目の「イエデン」から、もう前までの井出健介とは全然別の人、すなわちExne kedyなのです。ジギースターダスト的な意味で。「誰でもいいから抱いてくれ 私の真空管」とか歌うとは笑

 

そういえば、ぼくの通っていた高校は制服がなかったからみんな私服で通ってたんだけど、こざっぱりした服を着こなしてクラスのファッションリーダー的なところもあった井出くん

井手健介と母船

が、突然学芸会みたいな服

Contact From Exne Kedy And The Poltergeists(エクスネ・ケディと騒がしい幽霊からのコンタクト)

で現れたことがあった。

学園祭の直前で、ぼくは当時副部長だった天文部の出店の準備で帰りが遅くなり、いつもは乗らない電車に乗ったんだけど、そこに井出くんがいた。

とりあえず隣の吊革を掴みはしたけど、話すことが思いつかなかったので、つい「どうしたのその服」と聞いてしまった。

井出くんは少し照れたような顔をして、「本当はこういうかっこをしてみたかったんだ」と小さな声で言った。次の日、井出くんは前までと同じ服装に戻っていた。

正直なところ、あのときみんなはどんびきだったけど、ぼくは君を断固支持するぜ、井出くん。